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それ、照れます!

照れたら書き、書いたら照れる。三十超えて頬を赤らめ、ひとりゆく。上平格子の「照論文 」

まぐろちょうだい

飲食店で照れる

 握る人がカウンターの中にいるタイプの回転寿司店。

 僕はどうも注文に手間取る。

 

「さあさあ、どんどんお声掛けくださいねェ」と威勢の良い声が轟いても、その人が何かを握っていたり、注文を受けていたりして、「カンパチぃ、イクラぁ、あァい」などと返事をしているのを見たら、今言っちゃいけないよね、「あァい、カンパチぃ、イクラぁ、どうぞォ」ほら忙しい、となる。そうこうしているうちに、「ほォい。ウニぃ、海鮮汁、あァい。2番さん、海鮮汁ゥ、スダポーン、スダポーンさーん、海鮮汁ゥ、2番さんにィ。あァい、お先にウニぃ、お待ちどうさまァ」

 配膳担当のお姉さんにビールも注文したいけれど、忙しそうで、それもできない。飲みたい。だから、お茶も入れられない。懊悩していると、意外に自分のすぐ斜めうしろのほうで違う女性の店員さんが下を見て立っていたりする。

 よく握り、よく回してくれるお店に、僕は感謝してもしきれない。

 喉が潤えばこっちのもの。次から次へと手が伸びる。注文する必要性もない。ただ、それでも、新しいのが回ってこなくもなるし、明らかに乾いたものも来るし、サーモン何皿もいらない。黒板に書かれたメニューを生意気にも食べたくなるわけで。ホワイトボードに消えかかっている何かの三貫盛りもいってみたくなるわけで。

 お腹は、あと2、3皿しか入らない状況であることがしばしば。いつも思う。ここで食べねば、言わねば、顔をあげねば……「すすすす、あの、すすすすすみ」

 

 

「まぐろちょうだい」

 

 

  おじさんの声だった。時が止まった。レーン越しに見えるその人が、すみませんも、あのも、大将も、お兄さんも、ねえねえも、あのさも、ごほんごほんも、なにもなく、いきなりまぐろ。まぐろちょうだい。おじさんは声量も滑舌も完璧で両肘ついて手もみ。刹那。食べるときは片手たたんで、口に入れたら片手起こして、また手もみ。刹那。他の客の注文直後でも関係ない。板前さんひとりでも。平日でも土日でも昼でも夜でも。324円でも108円でも。手もみ。手もみ。刹那。ねじねじ巻きのストールが脳裏に浮かぶ。

 

「カンパチとツブ貝とシャコ。サラダもちょうだい」

「あァい、カンパチツブ貝シャコサラダ。スダポーン、スダポーンさーん、あ、シリポーンさーん、8番さん、サラダねー」

 

 追加につぐ追加。どこのお店に行ってもこういう人がいるのは気のせいだろうか。なぜ、そういう風に注文できるのだろうと憧れはしないが、男はこうでないとと刷り込まれるようでいつも怖い。

 そういうおじさんはお酒が飲めないのだろう。BAR感覚でひとりの時間を嗜んでいるのだろう。

 

ジントニックとミックスナッツ。オリーブもちょうだい」を、ほんとはやりたいのだ。

 

 

 なんの前触れもなく、「まぐろちょうだい」なんだか照れる。

 

 

 心理学を持ち出しがちな人は、僕が彼を生み出したと言うのだろう。

 おじさんの心理を教えてほしいよ。おじさんに。

 

 

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